ボスフォラス海峡を望むエユップの墓地とフーセンネコとフーセンウサギ
(背景はカフェ・オデッサーイスタンブールで販売していたポストカード
そして物語の構想を聞いた数日後に見つけたフーセンネコとフーセンウサギ?のガラス細工)
実現しなかった物語 目次
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構想だけで終わってしまった「ヤツガシラの恋」「イスタンブールの風船ウサギ」


「ヤツガシラの恋」は、ロシア革命後の国内戦の時代の物語。
 空き家になった地主屋敷に白軍の中尉が住んでいるらしい。
 屋敷の持ち主だった貴族が国外に去ってから、屋敷を囲む庭園は荒れ放題で雑草が生い茂っている。
 その雑草の間に、ヤツガシラが見え隠れするようになる。
 ヤツガシラは白軍中尉に恋をしているらしい、という噂が立つ。

 私が町田純から聞いて、覚えているのはこれだけです。
 白軍は、皇帝側の反革命軍。
 この中尉は後に黒海を渡り、「イスタンブールの占いウサギ」でヤンと出合い、
 ロシアへの望郷を断ち切れずに戻っていくあの中尉です。
 ヤツガシラはパレスチナからヨーロッパ、ロシアを旅する美しい渡り鳥です。

 
「イスタンブールの風船ウサギ」は、墓地で風船を売るウサギの物語。
 「風船はいかが。死者の魂が風船と共に天国に行けますように」
 「風船はいかが。天国に旅立つ死者の魂を風船で見送りましょう」
 
 イスタンブールの占いウサギは物語の最後で姿を消し、
 その後戻って来たのか来なかったのか、謎を残したまま終わります。
 風船ウサギは帰ってきた占いウサギなのか、違うウサギなのか? 
 このことについては聞いていません。
 町田純も、まだ考えていなかったのかもしれません。
 書き進めていたら、きっと意外な展開が待っていたような気がします。

 この2つの物語の構想は、私が聞き覚えているだけでメモすらもないと思っていましたが、
 1つだけold cerrespondenceに記録が見つかりました。
 2001.2.15の灰かむり婆さんへの返信です。
 ここでは、「ヤツガシラの恋」ではなく「ヤンとヤツガシラ」というタイトルになっています。
 old correspondence
  2001.2.15
 町田純から灰かむり婆さんへの返信

 「ヤンとシメ」の続編の
「ヤンとヤツガシラ」というのを考えていました。何年か前です。
 この中で、シメ君の住む貴族の別荘が燃え上がるのです。
 革命後の内戦で。そこに、「占いウサギ」の中尉もいる。

 「占いウサギ」の続編も以前考えていました。
 「イスタンブールのフーセンウサギ」というタイトル。
 ウサギは風船売りになっています。葬式の時に黒い風船を売りに来る。
 もちろん普通の風船も売っていますけどネ。
 そして、埋葬の時、参列者(イスラムです)はウサギから買わされた風船を空に放つのです。
 黒い風船はイスタンブールのはずれの墓地から、灰色の空を舞う。
 ボスフォラス海峡へ向かうのもある。
 ヤンもバイトで一緒に売ります。
 トロツキーもちょっと顔を出します。イスタンブールに亡命していた。軟禁だったかな。

 註( by Mariko Machida)
 イスタンブール沖のプリンキポ島に亡命中のトロツキーは、特に制約も受けずに暮らしていたようです。
 トロツキーが赤軍の指導者だった時、トルコ独立のためにヨーロッパ列強と戦っていたアタチュルクに
 武器の支援を行いました。これに恩義を感じたアタチュルクがトロツキーの自由を保証したのでしょう。
 ただ、当時イスタンブール市内には白軍(反革命)側の亡命者が多数いたので、市中にはほとんど行きませんでした。 
 自由に市内を歩きまわることが出来なかったという意味では、「軟禁だったかな」と言えるかもしれません。

ヤツガシラ