4. Loyko in Russia, Loyko

Loyko

「……絃を弓で撫でると心臓がぶるっとふるえる。
もういちど撫でると、聴いているうちに心臓がとまりそうになる。
……だがロイコ・ゾバールは弾きながらほほえんでおる。
それを聴いていると同時に泣きたく、また笑いたくなる……」*

ゴーリキーが処女作「マカール・チュードラ」で語る、誇り高いロマ=ジプシー、 ロイコ・ゾバール。このロイコからロマのバンド、トリオ "ロイコ”は名付けられた。

"ロイコ”の演奏は、文字どおりハートを掴み、心を揺さぶる。

トリオ "ロイコ”の結成の物語もまた、ゴーリキーの語るロイコ・ゾバールの物語と同じくらいスリリングだ。

ともにロシアの有名なロマ・ミュージシャンの家系の出であるセルゲイ・エルデンコとオレーグ・ポノマレフは、ごく近くで同じような環境で育ちながらも、交差することなく、それぞれ別の音楽院でクラシック音楽の素養を身に付け、さらに一方は演劇へ、一方は前衛ジャズへと関心を向けていた。

1991年 12月、ロンドンのレストランで演奏していたエルデンコに、やはりロンドン滞在中のポノマレフが偶然出会い、その場で演奏に加わる。2人のジプシーヴァイオリンは聴衆を魅了し、"ロイコ”が誕生する。

翌年ロシアから来たばかりのギタリスト、ヴァディム・クイツキーが加わって、完璧なトリオ "ロイコ”になった。

"ロイコ”はロシアのジプシー音楽から、モルドヴァ、バルカン、ユダヤなどの東ヨーロッパの音楽、そしてメンバーそれぞれが作曲した曲を、自在なアレンジ(ドラマティクな、叙情的な、即興風の …)と驚異的なテクニックで演奏する。

「 …と思うと曠野が空に物語を、悲しい物語を話してきかせる。
剛胆の若者を見送りながら娘が泣いている!
心やさしい若者は娘を曠野へ呼んでいる。
と急に、ヘーイ! 気ままな生き生きした歌が雷のように鳴りとどろく、太陽さえうっかりするとその歌にのって空で踊りをはじめるよ!
まあこんなふうさ、ロイコ・ゾバールは … 」

3人の (のびのびした、力強い、優しい)声のアンサンブルも素晴らしい。
心が高ぶり叫びたくなるような、
心が高鳴り踊りたくなるような、
心が果てしなく拡がるような歌声。

そう、こんな音楽は、カワカマス君が弾いていた音!
ヤンのいる草原を吹き抜けたカワカマス君とカワメンタイ君のジプシー音楽!

カワカマスのヴァイオリン」のサウンドトラックには”ロイコ”がたくさん使われている。また、「イスタンブールの占いウサギ」で、ヤンの耳に聞こえたロシアン・ジプシーの歌声にも "ロイコ”が使われた。

* 「マカール・チュードラ」からの引用は、湯浅芳子訳世界文学大系49「ゴーリキー」(筑摩書房1960 より、一部変更) なお、 映画「ジプシーは空にきえる」1976 はこの小説をもとにしている。


ボクの目の前の枯れ草の上で、誇らしげに演奏する二人のジプシーが立っていた----
「カワカマスのヴァイオ
リン」(町田純 作)より

---ボクの耳元に囁くように届く声は、ロシアン・ジプシーの歌声だった----「イスタンブールの占いウサギ」(町田純 作)より
LOYKO in RUSSA

ヨーロッパ中で喝采を拍していた”ロイコ”だが、祖国ロシアでのコンサートは、ヴァレンティーナ・ポノマリョーヴァの企画で、2000年2月に初めて実現した。これはその時のLIVEで、"ロイコ”のロシアで最初の、最後の、最高のCDになった。

"ロイコ”を代表する曲が続く。3人が火花を散らす。聴くものは、息をのみ、心奪われる。

"おまけ”はヴァレンティーナ・ポノマリョーヴァの歌。(彼女は、有名なジプシー歌手で前衛音楽家、オレーグ・ポノマレフの母親)

そして最後はポノマレフの新曲「真夜中の猫」。これはスゴイ!
ヤンだったら、「夜中にちょっとウルサイね」と言うかもしれない。でもドラネコは、背中の毛を逆立てて興奮した。

この後、"ロイコ”はエルデンコ1人を残してメンバーが代わった。
女性ヴォーカルも加わった新しい "ロイコ”は、もとのような緊迫感が薄れたけれど、親密な雰囲気になった。これも、またいい。

ギタリストのクイツキーは "タリスマン”というトリオを結成してた。これも、またいい。

しかし、トリオ "ロイコ”はもう存在しない。ロイコ・ゾバールとともに伝説になった。ポノマレフは行方知れず。求む情報。



新ロイコ


ヴァレンティーナ・ポノマリョーヴァ
「黒い瞳」オレーグ・ポノマレフも共演


"タリスマン”のクイツキー

それにしても、”新ロイコ”以外のカヴァーのデザインはひどい。ジプシー音楽に対しての偏見と固定観念の表われ? どうかカヴァーのダササに惑わされないでください。本当は、一番上のモノクロ写真のような格好良さ !!

Text by Mariko Machida 2003.11

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