小ネコちゃんて言ってみナ
「小ネコちゃんて言ってみナ」
ボクはこのポスターのような板絵に穴をあけ、ひもを通して、首からブラ下げた。
……
フェズ帽を被って、ボクは空家を出た。
ボクの誕生日」
2月6日、今日はボクの誕生日だ!
……
そして以前から、決してこんな趣味の悪いモノは買うまいと思っていた真っ赤な長靴を買ってしまった。
……
戻る途中で、耳覆いの付いた中古の帽子を抱えて、睨むような目付きで立っているオバサンがいた。
気に入らなかったけれど、安いので買ってしまった。
……角の古着屋に、ボロの子供用コートがブラ下がっているのが見えた。気に入らない仕立てだった。
フラフラと中へ入って、ひどく不機嫌な顔をしたオジサンから買ってしまった。
半地下へ降りる階段は凍ってツルツルして、危なっかしかった。
……少し落ち着いてから、派手にヒビの入った小さな丸い鏡を覗いた。
ひどい恰好だった。
……それからまたしばらくして、鏡を覗いた。
不思議と今度は、意外と似合っていた。
ボクはつぶやいた。
「オメデトウ……ボクの誕生日……」
立った耳」
四阿に着くと、椅子に坐ってお湯が沸くのを待った。バスケットからティーポットとカップを二つ取り出して。
……「思うんだけど、ボク達の耳はやっぱり何かを聞くために立っているのかな」
「そう、そうだね。それも、ずっとずっと遠くの、遥か向こうの何かを聞くためにね。囁くように呼びかける小さな声も、虫の羽音も、そして夏の夕暮れのワルツも、何もかもだヨ」

受難曲」
テーブルの上には、なぜか古びた蓄音機。その上には一枚の音盤がのっていた。
……冷たくなったパンを抱えて、ボクもキタリスの小屋の戸をたたく。
……暗がりに金色に浮かび上がる聖像画の列
劇場」
今上映されている作品は、"イスタンブールの占いウサギ"とかいうかわったタイトルの喜劇だった。
ボクはムク犬
そしてもう一度見たとき、あのムク犬もマスクをかけていることに初めて気がついた。 
三人の老人と三匹のネコ」
……そして門に向かって、塀越しに何か液体の入ったガラス壜を次々と放り込みながら歩いていった。どこに隠していたかって?もちろん大きな鞄の中だ。
十二月のクリスマスの前の寒い日、心配になったボクは、できたての熱いジャガイモのスープの鍋をマフラーでくるんで、ハラハラと雪がちらつく舗道を歩いて行った。
の床の記録」
彼の部屋は一番はじっこにあった。手書きの汚れたカードがドアの横に鋲で留められていた。
    短編作家
    やや黒猫
   ウレナイコフ
ボクは部屋の中を見廻した。粗末なベッドと、机をかねたテーブル以外、目につくものはなかった。
テーブルの上にはホウロウのスープ皿、スプーンが散らかっていた。ただ全て空だった。
あと、何も書かれていないノートが開いていた。ついでにインクが乾ききったペンも一本転がっていた。インク壷は、見当たらなかった。
翌日、ボクはいつものカフェでヴァーンベーリのトルキスタン潜入記を読んでいた。
……市場に行く途中、いつものカフェに立ち寄り、トルキスタン潜入記の続きを読んでいると、ボクの前の席に彼が坐った。
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