1. The Last Balkan Tango
タンゴというものは、何故か頽廃と背徳の香りを漂わせ、危うく物悲しい。
ボスニア内戦とそれに続くUSA、NATO軍による爆撃――この世の終末の体験から生まれた「ラスト・バルカン・タンゴ」は、まさに頽廃と没落の極み。
しかし、この世界の最後の日のダンスパーティーは、絶望を抱えながらも、力強く、美しく洒脱で軽やかですらある。
絶望し尽くした後は、跳び越えるしかない? でも、どうやって?多分ほんの少し視点をズラして、ちょっと外から、世界とちっぽけな自分を眺めること。
そして、バカバカしい世界とちっぽけな自分たちを笑うこと。
音楽でこれをやってのけたボリス・コバーチは天才だ。USAがアフガニスタンへの爆撃を開始した次の日、彼らのコンサートを聴いた。怒りと無力感の中で。聴きながら、これが最期の日になってもいいと思った。
聴き終わって勇気をもらった。USAがイラクを破壊しつくし、イスラエルは巨大なパレスチナ人のゲットーを造っている今、私たちに必要なのは、深く力強く絶望すること。そして、世界と自分たちのバカバカしさを笑うこと。それがだめなら、せめてコバーチを聴いて、悦楽にひたろう。
絶望は力になりうる !
Text by Mariko Machida 2003. 7. 25
生まれて初めて生身の天才をこの目で見た。いや、聴いた。 演目はTHE LAST BALKAN TANGO または、 TANGO APOCALYPSO = 黙示録の、世の終わりのタンゴ。 タンゴと言っても、クレーメルたちが今頃になって喜んで弾いているピアソラなんかじゃない。バルカン的な絶望に、ウィーンの腐った香り少々、そしてオリエントのバラ。 KOVACの音楽背景はビザンチン、セルビア中世、地中海、トルコ、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリー、セルビア、ロシア国民学派、バルトーク、ミニマリズム、ヨーロピアンジャズ、インプロビゼーション、アートロック、室内楽ときりがない。それにこのように記すと、頭でっかちのただの深刻ぶったアバン・ミュージックと誤解されそうだ。彼の昔の作品は多少そのきらいがあった。 しかし、最新作のこのTHE LAST BALKAN TANGO は、けっして難解な音楽デはない。世界の終わりの一日に開かれたダンスパーティーという設定の下、胸に迫るバルカンのタンゴとワルツが、いつ終わるともなく、いや、終わることの無いように、延々と演奏される。 これはコンサートではなく、演劇であり、儀式だ。 バルカンで西洋と東洋を見つめながら、ドストエフスキーを読み、ニーチェ、ショーペンハウエル、そして実存主義、サルトル、カミュ、キルケゴール、ヤスパース、ハイデガ−、最後にベルジャーエフを通して、グルジェフといった神秘主義へと進んだらしいボリス・コバーチの真摯な姿勢にボクは共感する。 まさにこの世の終わりの始まりの夜に開かれた演奏会を一生忘れないだろう。 コバーチのCDをボクはシブヤのタワーレコードで手に入れた。ジャンルはワールド。 Text by Jun Machida 2001.10.10 BORIS KOVAC
& LADAABA ORCHEST |