草原の祝祭
なおも下ると花崗岩の小さな岩場が現れ、ボクはその上で、さっきから編み目の袋の中で愉快に踊っていたキャベツのピローグを食べ始めた。
樹々の影が線路の盛土を横断するころ、南からゆっくりと速度を落とした列車は、ゆるい上り勾配のレールを歩くようにやってきた。
いやいや先に進む列車を降車場のはじっこで見送りながら、なおもカチャカチャやっていると、ようやく小さな泡の粒が盛り上がって、ゴーゴル・モーゴルが完成した。
ツルの首を見飽きたボクは、ツルと同じように窓越しに外を見ようとした。しかし外は漆黒の闇で、にときどき思い出したように当たる氷の粒以外は何も見ることはできなかった。
古びた帽子をかぶり、襟巻きをした、それなりに年を取った背の低いヴァイオリン弾きが、モルダヴィアあたりのジプシー風の曲を弾きながら、小銭を集めていた。
尻尾と足をぶらぶらさせながら、食堂と降車場の間に生えている三本の白樺の下にあるベンチで列車を待っていると、線路の向こう側に広がる落葉樹の林の黄葉が、秋の風に揺れてキラキラと一枚一枚反射しては、くるくると回転を繰り返した。
大きなホールの一角の待合室には、旅行鞄をパンパンにふくらませ、もう二度と過去を広げたくないばっかりに、紐でしっかり締めつけたオジさんと、白い琺瑯のバケツにジャガイモをいっぱい詰めて、もう一つのバケツには玉葱をやはりいっぱい詰め、その傍らにしゃがみこんだオバアさんがいるくらいだった。
そして白樺で編んだ大きなカゴには、互いにいたわりあいながら、がきれいに積まれていた。
ボクはガタガタする机の引き出しを開けて、静かに横たわる、あの暗く寂しく沈んだ町の十二月のオバアさんからもらった星や月やベルを眺めた。
それは十二月にしてはずいぶんと暖かい日だったが、フェルトのブーツを履き、手のひらも冷たくなるので毛糸の手袋をして、首にマフラーを巻き、耳覆いの付いた帽子をかぶって小屋を出た。
ボクのおなかをくすぐっていた陽の光はいつしか、テーブルのサモワールに反射して、すすけた天井の木目を照らし、ボクはその不思議な模様に見とれていた。
サモワールをわかして、お茶の用意をしながら、チラチラとカワカマス君の方を見ると、彼は大きめの袋の中にガサゴソと胸びれをつっこんで、一つずつ大切そうに、床の上に銀色をした星や月や球を並べていた。

 ボクらは熱いお茶をのみながら、床に広がった銀色に輝く宇宙を眺めていた。
 それはあの冴え冴えとした北の海岸に打ち上げられた星達でもなく、ボクが雪面に転んで散らかした月でもなく、オバアさんの袋から点々と落ちていった銀河でもなく、さびしく、初冬に、ツリーからふり落とされた星ともちがって、暖かいこの室内でボクらの楽しげな視線を浴びて、心地よさそうに転がっていた。

 ボクはていねいに、一つ一つ細い針金でぶら下げていった。
 そして、、木箱にのって、てっぺんにほんの少し大きめの銀の星をやっぱり針金でしっかりと結びつけた。
 真っ青な空の下、草原には心地よい風が吹いていて、ボクが一つ一つぶら下げていくと、ぶら下げたばかりの星や球や鐘がユラユラと揺れていった。
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