ボクたちネコのお人形コンビ

河のほとりで

 
 そして今、ボクらの目の前に大きな河がゆったりと流れている。
エンジンを切って、風防眼鏡をおでこに上げ、赤ネコはフッとため息をつく。
青ネコはサイドカーから降りて、河の土手に向かって歩いている。

「なんか懐かしくない?」
立ち止まった青ネコが河を見渡しながら赤ネコに声をかける。

「別に」
と赤ネコはまだオートバイにまたがったまま。




「ソーだ」青ネコはチャプチャプ水に入っていく。

「アッ」
河底の小石につまずいて青ネコはうつぶせに流れ始めた。

ボクらは本当に世界を愛しているのかナ…ゆったりと漂いながら、青ネコはフト考える。

翡翠(ひすい)のような緑の小石、瑪瑙(めのう)のような縞の入った小石、そして石英のように透き通った小石の列がずうっと先まで。
あわてて砂に潜る魚はカジカの仲間???

すーっと水の天井を青ネコが通り過ぎる。
カジカが見上げると、それは巨大な青の飛行船。

「不思議な生き物だ」カジカはつぶやく。







赤ネコはいつの間に、土手の高いところに転がった大きな石の上で両足をブラブラさせて空を仰いでいる。

「ボクらは本当に世界を理解しているのかナ……」
赤ネコはつぶやく。
---- それとも…… ----

石でお尻が痛くなった赤ネコは、さっきから土手の草の上に坐っている。
コケモモのちっちゃな濃い緑の葉に張られたクモの巣に露がのっている。ところどころ赤い葉がまじっていても、コケモモの実は見つからない。

なんで善で報いるのかナ* 
左足にからみついたクモの糸がわずらわしい赤ネコは、小枝の先でほどきながら文句を言う。
そしてついでに、周到に張りめぐらされたコケモモのクモの巣を小枝でからめ取ろうとする。

* 愛すること、---- 歩くこと、---- 雷鳴はまだ鳴りやまない、
 憂愁を踏みしだくこと、靴を気にとめぬこと、
 針ねずみを威すこと、善で報いること、
 クモの巣をつけた苔桃(コケモモ)の悪には。

    ----- ボリース・パステルナーク「わが妹人生」(工藤正廣訳)より

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