「ヤンとシメの物語」より

左がシメ君  右がネコのヤン







 それからしばらくして、ボクらはまぶしいくらいに光り輝く夏の草原にとび出していた。
 シメ君はいつものようにボクが作ったピローグの入ったかごを片方の翼で持って、ボクはといえばたっぷりお茶の入ったヤカンの柄を握って、もう一方の手で画板の代用品の板とスケッチブックを抱えて歩いて行った。







 戸を開けると、太り気味のクロライチョウが入ってきた。ざっと見たところ持ちモノは何もないようだった。右の翼に持った小さなバスケット以外は。
「あの、クロイチョウさんは、どこから来たのですか?」
「今ね、そこから来たのです。あのネ、ネコさん、白樺の木のてっぺんは、あんまり高くない。だから、いろんなものは見えないのですか」
「イヤ、ボクはあんな高いところはフラフラして上れないんです。枝の先は弱いから、しなっちゃいますから。それにもともと高いところは得意な方ではないんです。だから 残念だけど、よく見えるかわかりません」






 ボクの話を全然聞いていないかのように、かわいいバスケットの蓋を開けて、中から彼はありきたりのガラスのコップと、陶製のソーサーを取り出して、そのソーサーの上にガラスのコップをきちんとのせた。さらに白いナプキン、……ところどころしみがついてはいた……を首に結わえて、胸にかけた。ぼくは、あっそうだと思って、ちょうどサモワールの火も入っていたので、お茶を彼のコップに注いであげた。彼はだまってお茶を一杯飲むと、
「南の海からレモンは流れ流れて、黒海で海水浴」と、サモワールを通り越して、相変わらず部屋を突き破った視線をしていた。

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