この透明な秋の始まりの大気を吸って、ボクらは黙ってテラスに立っていた。ただ、ボクは自分でも気がつかないうちに、スプーンを片手に握りしめていた。
「たとえば、自分がいくらお腹がへっていたからといって、たまたま実のなっていない無花果にあたることはないと思うんです。まして、それを枯らしてしまうなんて、なんて自分勝手なんだろう※。そんなエゴイスティックな考えは消えた方がいい。無花果がかわいそうだ」
 と、ボクは言って、目の前に漂って来たかなり大きい球形におもいきりスプーンの柄を突きたてた。

 球はあとかたもなく消えた。

※マタイによる福音書第二十一章……朝早くエルサレムへ帰るとき、イエスは空腹を覚え、道のかたわらに一本の無花果(いちじく)の木を見つけたが、葉のほかは何も見当たらなかった。そこでその木にむかって、「今から後いつまでも、おまえには実がならないように」と言うと、いちじくの木はたちまち枯れた。

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