8 コーカンド
フェルガナからコーカンドに向かうバスの途中で、陶器の町のバザールに立ち寄った。町の人が普段使う陶器を買えるのは嬉しい。スープやラグマンに使うどんぶり、大きな平皿、日本のと同じような形の湯飲み茶碗。どれもラフに手描きされた伝統的な模様が美しい。スーツケースの服の間に丁寧に詰め込んで、買った陶器はみな無事に日本に着いた。大きな平皿は豚カツやポークソテーによく使ったが、あるとき真二つに割れてしまった。「バチが当たったかな……」真顔で純が言う。
宗教を認めないソ連内の共和国とはいえ、中央アジアは歴史的にはイスラム圏だ。イスラムでは豚肉は禁止なのに、その皿で豚肉を食べていた! 町田純は真面目な顔で、みえみえの嘘や冗談を言っては人をからかうことがあった。
お茶用のカップ
割れた皿は接着剤で付けて、ほぼ復元(奥の皿)
サムサの窯の前で 超美味サムサ 小さなバザールの隅にちょうど人が1人入れるほどの大きさの、土で出来た窯があった。窯を開けたところらしい。お兄さんが中を覗かせてくれた。壁面に三角の形のものがびっしりと張り付いている。サムサだった! 
お兄さんに熱々の焼きたてサムサをもらった。中には羊肉とタマネギ。美味しい!!! 
しかし、タマネギが光っているのを見てしまった純は食べようとしない。町田純はタマネギが苦手だった。
民家の中庭
コーカンドはこぢんまりとした町で、歴史的建造物と人々の生活の場が混然となっている。観光スポットのモスクからハーンの宮殿に歩いて行く道筋には民家が並んでいて、葡萄棚のある中庭が見えたり、母親が赤ん坊をあやしていたり、墓地では子どもたちが遊んでいたり、ナンを売る人がいて、肉屋があって、チャイハナがある。
肉屋
神学校の寄宿舎
木陰にベッドのような台を並べたチャイハナでは、老人やおじさんが台の上に坐ったり、腰掛けたりしてお茶を飲んでいる。カメラを向けると、人懐っこい目で応じてくれる。私の顔を見てニコニコと何か言っている。ホクロがいいね、と言っているような気がする。どこかイスラムの国ではホクロはチャームポイント、と聞いたことがある。ここでもそう? ここにいれば、ホクロのコンプレックスを持たなくてすむかな? 
チャイハナのおじさん
次の日はウズベキスタンの首都タシケント。
9 タシケント に続く